(音声版はこちら↓)
不安を避ける「安全行動」
セルフ・エフィカシー(自己効力感)の大切さは、もう耳にタコができちゃうよというほど説明してしまいましたね。
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参考セルフ・エフィカシーを高めよう
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「自分には発作や予期不安に対処する力があるんだ」という自信が、回復を大いに促してくれます。だから自信を高めることそのものが、実は治療になるというわけなのです。
そのために「回避行動をやめよう」という話も以前取り上げたかと思います。
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参考エクスポージャー(曝露療法)
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不安や恐怖を感じるシチュエーションを回避すればするほど、苦手な場所が増え、症状が悪化してしまいます。
その理由は、やはり「自信を失う」ことが大きく影響していると言えるでしょう。自信を失わないため、さらに自信を高めていくために「エクスポージャー」を段階的に重ねていくのでしたよね。
そして回避行動に加えて、もう一つ「自信を高めるのを阻害する」ことがあります。それが「安全行動」と呼ばれるもの。「安全保障行動」「安全確保行動」などとも言われます。具体的には「不安を小さくするような行動」のことです。
例えば不安でドキドキしてきたとき、その緊張をごまかすために何か別のことを必死に考えようとした経験はないですか?
また、気をそらしたり気持ちを落ち着けたりするために、用意していることやモノはありませんか? 例えば、安心のために水やお薬を持ち歩いたり、トイレのある車両にしか乗らないようにしたり。
実はこれらの行動は、すべて安全行動に含まれます。気をそらすことで不安を小さくして、安全を確保しているのです。
自信を阻害する「安全行動」の例
- ドキドキしてきたときに、何か別のことを考えて気を紛らわせる
- どこへ行くにも「お守り」代わりのお薬やミントタブレット、水などを携帯する
- 電車や新幹線などに乗るときは、必ずトイレのある車両に座る
- 呼吸が乱れないように、なるべく走らない(運動しない)ようにする
- 予期不安や発作が出てきたら、その場にうずくまってじっとする など
安全行動はただの悪者ではない
結論としては、安全行動はやめた方がいいと言えます。だけどその前に言っておきたいのは、「安全行動」そのものは決して悪者ではないということ。
認知行動療法を始めて間もない頃には、この安全行動が大きな支えとなってくれたりもするのです。
何か別のことを考えて気を紛らわせることで、パニック発作を遠ざけることができたという経験をお持ちの方もおられるでしょう。
あるいは、お薬やミントタブレットなどをカバンに入れておくと、外出先で緊張しないで済むという方もおられるかと思います。
このように、安全行動がある種のモチベーションになるというのは、実際によくあることです。
ただ、安全行動で得られる安心感は、一時的なものでもあります。その時はホッと安心できたとしても、その安心行動を手放した瞬間、一気に不安が押し寄せてきたりもするでしょう。つまり長期的に見ると、不安は少しも無くなっていないのです。
また、安全行動をとるたびに「安全行動なしでは行けない場所がある、できないことがある」というのを自覚することにもなってしまいますよね。やはりそれでは、なかなか自信を高めることはできません。
安全行動を上手にやめるには
安全行動をうまく卒業するには、不安階層表などに組み込んで、計画的に少しずつ手放していくのがいいでしょう。
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不安階層表の作り方エクスポージャーの目標設定
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出かけるときに「お守り」代わりのグッズが手放せないという場合は、まず、その安全行動ありきで一つ目標を達成します。
例えば、「お守りグッズをカバンに忍ばせて、各駅電車で隣の駅まで行く」というような目標です。最初はもちろん、自分にとって不安レベルの低い目標からスタートしましょう。
そしてその目標達成に自信がついてきたら、次は「お守りグッズを携帯せずに、各駅電車で隣の駅まで行く」という目標にステップアップするのです。
また、予期不安が高まってきたとき、つい何か別のことを考えたり、スマホでゲームをしたり、誰かとおしゃべりしたりして気を紛らわせてしまうという場合には、あえて予期不安の出る場所へ行って気を紛らわせない練習をするのもいいでしょう。
気を紛らわせないというのは、つまり「今不安を感じているな、怖いな、ドキドキしているな」というのをじっくり感じるということです。その際、もしも発作が起きてしまいそうになったら、呼吸法や漸進的筋弛緩法を実践するようにしてください。
予期不安や発作が出てきたとき、慌ててどこかへ駆け込んだり、うずくまってじっとしてしまうという場合には、例えば3回に1回はどこにも駆け込まないようにしてみるとか、うずくまらずに立ったままでいるというような工夫をしてみましょう。そしてその頻度を少しずつ上げていくといいと思います。
ただ、どの場合にも言えることですが、一気にスパッとやめてしまうような極端な方法は避けましょう。
何事も段階的に、ゆっくり自分のペースで取り組むのが一番です。
そして、その安全行動を完全に手放せそうだと思ったときには、「今まで支えてくれてありがとう」と心の中でお礼を言ってみるというのはどうでしょう。
そうすることで、安全行動そのものに対しても、安全行動に支えられてきた自分に対してもネガティブなイメージを残さずに清々しい気持ちで卒業できるのじゃないかと思います。