認知行動療法③ 不安感や恐怖感に誤解が潜んでいる事を知る

最後に「不安感や恐怖感に誤解が潜んでいる事を知る」という項目について解説します。

パニック障害の予期不安、予期不安を避ける回避行動などについてを、これまでの記事で詳しく解説してきました。

不安感や恐怖感に誤解が潜んでいる事を知る

実は、これまでの中で私たちは「不安感や恐怖感に誤解が潜んでいる」という事を既に学び始めています。

例えば、こんな予期不安。

  • 「ここへ行くと発作を起こしてしまうかもしれない」
  • 「発作を起こしたら死んでしまうかもしれない」
  • 「気が狂って叫び声をあげたり、自分をコントロールできなくなるかもしれない」

これらの想像が現実のものになるかといえば、そんな事はありませんね。いずれも誤解だという事はこれまでに学んできた通りです。念のため、誤解だという根拠をもう一度おさらいしておきましょう。

予期不安が現実にならないという根拠

  • パニック発作は過呼吸によるものなので、呼吸コントロールで静めることができる。
  • たとえ発作を起こしたとしても、心臓発作や脳出血ではないので死に至る事はない。
  • もちろん気が狂ってコントロールが効かなくなる事もない。

さらに言えば、もし予期不安が収まらずにパニック発作が起きた(呼吸コントロールに慣れていない頃には、ときどきありうる事です)としても、息苦しさやめまい、震えや恐怖感などの諸症状が永遠に続くわけではありません。

個人差はあるものの多くの場合10〜20分、長くても30分〜1時間以内に収まります。何も特別な事をしなくても勝手に収まるのです。もちろんその間に死ぬ事はありません。

パニック障害の予期不安で頭を駆け巡りがちなのは、あらかた「最悪の事態」です。しかも「発作の末に死んでしまうのではないか」「何か取り返しのつかない事態になるのではないか」という、あまりにも破局的な思考です。そんな事が起きるであろう根拠は一つもないのに、なぜだか必要以上に心配し過ぎてしまう。

その理由はひとえに以下の2点に集約されるでしょう。


  • パニック発作が起きる可能性を、過大評価している
  • 自分の対処能力を、過小評価している

些細な体調変化や環境変化でさえパニック発作の引き金になりうるのだと思い込んでしまっているのです。

そして、パニック発作は何をどうやっても自力でコントロールできるものではないと信じてしまっているのです。 

しかし先に述べたとおり、それらの思い込みは思い込みにしか過ぎません。残念ながら、現実をニュートラルに捉える事ができていないという事です。

大切なのは、今起こっている事に対して、過大評価でも過小評価でもない「正当な評価」を下す事。

ポジティブ過ぎるでもなくネガティブ過ぎるでもない、客観的でバランスの取れた考え方をする事。

それが、根拠のない無用な不安を根本から払拭するコツなのです。

破局的な思考を、バランスの良い考え方に置き換える

では、破局的でないバランスの良い考え方を身に付ける訓練をしていきましょう。

そのためはまず、不安を感じた時に以下の質問を自分自身に投げかける事から始めます。

不安や恐れを感じた時に、自分に投げかける質問

  • 自分は自分について、どう考えているか
  • 自分は何が起こる事を怖がっているのか
  • 自分は今この状況について、どう考えているのか
  • 自分ではどのように対処しようと考えているか
  • 今ここではどうしようか

例えば、電車に乗ろうとして不安でドキドキしてきた時、早速先ほどの質問を自問して、答えをリストアップしてみましょう。


  • パニック発作が出たら、倒れてしまうかもしれない
  • パニック発作を起こしたら、何か取り返しのつかない事態に陥るかもしれない
  • 前に電車で発作を起こしたから、今回も絶対に発作を起こす
  • とにかく薬を飲まなきゃ
  • 電車に乗らないようにしなきゃ

そして次に、その思考を論理的に否定します。今リストアップした項目に対して、改めて以下の質問を投げかけてみましょう。

破局的な思考に対して、投げかける質問

  • 私が恐れている事に根拠はあるか
  • 私が恐れている事が現実になる可能性はどれぐらいあるか
  • もし現実になったとしたら、どうなるか
  • この考え方は現実的か

この問いに対する答えは、例えば以下のようなものが考えられます。


  • 電車に乗ったら必ずパニック発作を起こすわけではない。なぜなら以前は何事もなく乗っていたのだから。
  • パニック発作を起こしても倒れる事はない。なぜならそもそも30分程度で収まるものだから。
  • 「取り返しのつかない事態」って、一体何が起こるのかまったく説明がつかないし根拠がない。
  • パニック発作は、呼吸コントロールをすれば予防することができる。
  • 電車に乗らないのは良い選択肢ではない。回避した分だけ症状がひどくなるから。

ここで、その場しのぎの希望的観測をしないように気をつけましょう。考え方をむやみにポジティブに寄せるのは訓練の意図を外れます。ここではあくまで客観的に、ニュートラルな考え方を心がけます。

その場しのぎの希望的観測の例

  • 不安になるわけがない。
  • パニック発作になるかならないかは乗ってみないと分からない。
  • 一か八か勇気を出して乗ってみよう。

思考を置き換える際には、きちんと根拠を探して破局的な思考を否定するようにしてください。

そして、不安や恐れ、緊張や落ち込みを感じるごとに、この作業を繰り返してください。繰り返すほどに置き換えがスムーズになってきます。

もちろんパニック発作以外にも活用できます。例を挙げてみますので、訓練の参考にしてみてください。


  • 破局的でネガティブな思考

同僚の鈴木さんが私の事を「仕事ができない人」と言っているらしいが、実際のところ私は本当に何もできない人間だ。そんな事を言われるのも仕方がない。

  • その場しのぎの希望的観測

鈴木さんには好きに言わせておけばいい。やりがいのない仕事だし、どうせいつか辞めるつもりでいたから、どうでもいい。

  • バランスの良い思考

鈴木さんがそう言っているのは残念だが、私自身はできるだけの事をやっている。その事で振り回されないようにしたい。

認知行動療法がパニック障害の再発を防ぐ理由

「バランスの取れた考え方」を身に付けると、パニック障害の予期不安だけにとどまらず、日常で持ち上がる悩み事や問題事に対しても、冷静でバランスの取れた判断ができるようになるでしょう。つまりこれは、ストレスへの対処能力が上がるという事でもあります。

認知行動療法の利点として「パニック障害やうつ病などにおける再発率の低さ」が挙げられているのは、まさにそれが理由です。

客観性を高め、バランスの良い考え方を身に付ける事で、精神疾患の主原因となるストレスに強くなるからなのです。

ここまでの話を聞くと、良い事づくめのように思える認知行動療法。実際のところメリットに比べてデメリットはほとんどありませんが、とは言えまったくないわけではありません。

一つ挙げるとするなら「薬物治療に比べて手軽ではない」という点。

即効性のある薬物療法に対して、認知行動療法の効果を実感できるまでにはそれなりの訓練量が必要です。

しかし投薬が一時的な対症療法である一方、認知行動療法は長い目で見て非常に効果が高く危険性のない治療法だとも言えます。

近頃は認知行動療法主体の治療を掲げたメンタルクリニックも増えていますし、関連書籍も多数販売されていますので、取り組みやすい環境は整ってきつつあると言えるでしょう。

最後に、改めて認知行動療法の3つの原則を。

①パニック発作の症状をコントロールする
②不安のせいで避けている状況にあえて直面する
③不安や恐怖を掻き立てる考え方に、誤解が潜んでいる事を知る

この3つの訓練は必然的に相互に取り組んでいく形になるでしょう。

まずは簡単な目標から、呼吸コントロールの練習も兼ねてチャレンジしてみてください。

その際にわき起こった不安や恐れは、客観的に根拠を探し、バランスの良い考え方に置き換えるようにしましょう。

コツさえ掴めばそれほど難しい訓練じゃありません。しかしいったん訓練を中断すると、再開するまでにまた不安や恐怖がぶり返す事もあります。

ですから、できるだけ定期的に。

怖ければ怖いほど頻繁に。

初めのうちは、週3〜4回をメドに取り組んでみましょう。


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参考書籍は以下のレビュー記事に掲載

管理人まー

管理人まー

↑Twitterやってます(@ok_daijobu) パニック障害がすっかり治ったアラフォー女です。 35歳の時、通勤電車内でパニック発作を発症。以来、不安、恐怖、息切れ、めまいなどの症状が日常的に現れるように。電車やバスに乗れない、スーパーのレジに並べないなどの『広場恐怖症』や、「またあの症状が出たらどうしよう」という『予期不安』に苛まれ、一時は仕事はおろか外出さえもままならない状態でした。その後少しずつ症状が改善していき、2年後にほぼ寛解。さらに1年後にはすっかり完治。 克服するためにいろいろ試した事や感じた事などを、このブログに綴っていこうと思います。 元商業ライター。現地方OL。

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